仙台高等裁判所 平成3年(ネ)344号 判決 1992年4月21日
控訴人
株式会社エスコリース
右代表者代表取締役
平山秀雄
右訴訟代理人弁護士
荒谷一衛
右訴訟復代理人弁護士
小林政夫
被控訴人
株式会社自動車免許更新共済会
右代表者代表取締役
金石太
被控訴人
金石太
右両名訴訟代理人弁護士
菅原通孝
主文
本件控訴を棄却する。
控訴人の当審における予備的請求を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 申立て
一 控訴人
1(一) 原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。
(二) 被控訴人らは連帯して控訴人に対し二八三万〇二〇〇円及びこれに対する昭和六一年九月二三日から支払ずみまで年14.6パーセントの割合による金員を支払え。
2 (当審における予備的請求)
被控訴人らは連帯して控訴人に対し二〇九万八二〇〇円及びこれに対する昭和六〇年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被控訴人ら
主文同旨
第二 主張
当事者双方の主張は、次のほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。ただし、原判決一一枚目表一〇行目の「金三七万八五〇〇円」を「金三七万三八〇〇円」と訂正する。
一 控訴人
1 原判決の理由について
(一) 原判決は、本件リース契約がファイナンスリースであること、本件リース契約の対象物件は本件コンピューターだけであること、被控訴人会社とミロク経理との間においては、ミロク経理が被控訴人会社に対し、本件コンピューターのほか顧客管理用ディスク、コンピューターソフトウエア一式の一般的操作方法の指導をするとの合意がされたが、右の合意には控訴人は直接関与していないこと、をそれぞれ認定しながら、ミロク経理が右の指導をしないまま倒産したこと、控訴人とミロク経理との間の業務提携契約、ミロク経理の倒産と控訴人との関わり、を理由として、控訴人の本訴請求が信義則に反するものと判断した。
(二) しかしながら、本件リース契約は、ファイナンスリース契約であるから、被控訴人会社が本件コンピューターの検収を終えてその引渡しを受けたときは、契約は有効に成立し、被控訴人会社は、契約成立後の事情であり、かつ控訴人の関与しないミロク経理の債務不履行等を理由として、リース料の支払を拒むことはできない。
(三) 控訴人と被控訴人会社とは、本件リース契約において、被控訴人会社は、ミロク経理から納入された本件コンピューターについてその検査を遂げ、これが完全な状態で引き渡されたことを確認したうえ、控訴人に対するリース料の初回金を支払うこと、控訴人は、右の初回金の支払がされたことにより、本件コンピューターが完全な状態で被控訴人会社に引き渡されたことを確認し、リース開始日を決定すること、をそれぞれ合意した。
そして、被控訴人会社は、控訴人に対し、昭和六一年一月一四日、本件リース料の初回金を支払った。
したがって、本件リース契約は、右の初回金の支払により、リース物件が完全な状態で引き渡されたものとして、有効に成立したものである。
(四) 右のとおりであるから、契約成立後の事情であり、かつ、控訴人の関与しない事情であるミロク経理の債務不履行等を理由として、リース料の支払を拒むことができるとした原審の判断には、事実誤認及び理由齟齬の違法がある。
2 当審における予備的請求原因
仮に、本件コンピューターが被控訴人会社によって検収されず、完全な引渡しがされなかったものであるとすれば、控訴人は、次のとおり主張する。
(一) 被控訴人らは、昭和六〇年一〇月二八日ごろ、ミロク経理を通じて、被控訴人会社代表者及び被控訴人金の各署名押印のある本件リース契約書(<書証番号略>)、預金口座からの自動引落としによるリース料の支払のための被控訴人会社代表者の署名押印のある預金口座振替依頼書等の契約関係書類を差し入れ、控訴人に対し、被控訴人会社を債務者、被控訴人金を連帯保証人とする本件リース契約の申込みをした。
本件リース契約書第四条には「リース物件について甲(ユーザー)はその検査を遂げ、完全な状態で売主から引渡しを受けたことを確認いたします」との記載がある。
(二) これに対し、控訴人は、同日、被控訴人らに対し「お引受け通知書」(<書証番号略>)を発送し、右お引受け通知書は、同月二九日か三〇日ごろ、被控訴人らに配達された。
右お引受け通知書には、リース料の初回金は「納入されたリース物件の数量・仕様・性能・品質等をご確認のうえ」支払うよう記載されている。
(三) また、本件リース契約締結申込みに先立って被控訴人らに交付されていた「リースご利用の手続としくみ」(<書証番号略>)には「初回金のお支払をもって、エスコリースでは、リース物件が完全な状態でメーカー・ディーラーからお客さまへ引き渡されたことを確認し、本リース契約を開始いたします」との記載がある。
(四) 控訴人とミロク経理とは、業務提携契約を締結し、同契約において、リース物件が売買代金支払後五か月以内にユーザーによって検収されなかったときは、控訴人は、当該リース契約を解除し、ミロク経理に対し、支払った売買代金に所定の割合による遅延損害金を加えた精算金の支払を求めることができる旨の約定をしていた。
そして、控訴人は、右の業務提携契約に基づき、同年一〇月三一日、ミロク経理に対し、リース物件である本件コンピューターの売買代金二四七万二〇〇〇円を支払った。
(五) 被控訴人会社は、同六一年一月一四日、控訴人に対し、本件リース料の初回金五万三四〇〇円を支払い、更に、預金口座からの自動引落としの方法により、第二回から第七回までのリース料計三二万〇四〇〇円を支払った。
(六) ミロク経理は、同年八月七日及び同月一一日手形不渡りを発生させ、同年九月五日破産宣告を受けた。
(七) ところで、被控訴人らが控訴人に対し本件リース料の初回金の支払をしたならば、これにより、控訴人は、本件コンピューターについて検収、引渡しが完了し、本件リース契約が有効に成立したものと判断して、ミロク経理に対し、リース物件である本件コンピューターの売買代金を支払うこととなるのであるから、被控訴人らは、納入された本件コンピューターが操作指導不十分のため検収できないものであるときは、控訴人に対し、これを検収することができないこと及びそのためリース料の初回金の支払ができないことを通知したうえ、初回金の支払をせず、また、自己の預金口座からの自動引落としによる第二回以降のリース料の支払について異議を申し立てるべき注意義務を負っていたものというべきである。
(八) ところが、被控訴人らは、右の注意義務を怠り、控訴人に対し、右の通知及び異議の申立てをしなかった。
(九) そのため、控訴人は、ミロク経理から前記(四)の精算金の支払を受ける機会を失い、少なくとも、前記(四)の売買代金二四七万二〇〇〇円から既に支払を受けた本件リース料三七万八二〇〇円を控除した残額二〇九万八二〇〇円相当の損害を被った。
(一〇) よって、控訴人は、被控訴人らに対し、民法七〇九条に基づく損害賠償請求として、二〇九万八二〇〇円及びこれに対する初回金支払の翌日である昭和六一年一月一四日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。
二 被控訴人ら
1 予備的請求原因に対する認否
(一) 予備的請求原因(一)ないし(三)の事実は認める。
(二) 同(四)の事実は不知。
(三) 同(五)及び(六)の事実は認める。
(四) 同(七)ないし(九)の事実は否認する。
2 反論
(一) リース契約上のユーザーである被控訴人会社は、控訴人に対し、リース料を支払う以外に何らの債務を負うわけではないから、被控訴人会社が控訴人に対し、リース物件の検収ができないこと及び初回金の支払ができないことを通知し、預金口座からの自動引落としの方法による第二回以降のリース料支払について異議の申立てをすべき作為義務を負うことはない。
(二) 仮に被控訴人会社が右の作為義務を負うものとしても、本件コンピューターが被控訴人会社に届けられたのは、初回金を支払った後のことであるから、被控訴人会社が、本件コンピューターの納入を受けた後に初回金の支払を取り止めることはできない。
(三) 控訴人とミロク経理との間の業務提携契約において、リース物件の検収期間が売買代金支払の日から五か月と定められていたことからも明らかなように、本件コンピューターの検収には時間がかかる。
ところが、控訴人は、お引受け通知書により、本件リース契約書に記載された支払予定日に初回金を支払うべきこと、第二回以降のリース料も本件リース契約書記載の日に支払うべきことの請求をしてきた。
そこで、被控訴人会社は、本件リース契約書に記載された初回金の支払期日には本件コンピューターの納入を受けていなかったが、約定どおりの納入がされるものと考え、契約書の記載に従って初回金の支払をし、預金口座からの自動引落としの方法による第二回以降の支払についても異議の申立てをしなかった。
右の事情のもとにおいて、被控訴人会社に対し、本件コンピューターに瑕疵があるときはリース料の支払を拒絶せよというのは、不可能を強いるものである。
(四) また、右のとおり、控訴人が、初回金及び第二回以降のリース料の支払を請求し、これを受領しておきながら、その後に至って本件リース契約書の記載を盾にとって、検収が終了した、損害が発生したなどと主張するのは信義に反する。
(五) 仮に、ミロク経理の倒産によって控訴人が損害を受け、これについて被控訴人らに損害賠償責任があるとしても、控訴人には、原判決五枚目裏三行目から八枚目表七行目までのとおり、ミロク経理の倒産について一端の責任があるのであるから、これに対する損害賠償額は、過失相殺により、減額されるべきである。
理由
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないものと判断する。
その理由は、次のほかは、原判決の理由と同一であるからこれを引用する。
一当審における控訴人の主張1について
ファイナンスリース契約に基づくリース料の請求であっても、これが信義誠実の原則に違反するものであるときは、私法の一般原則に従い、その権利行使が許されないことはいうまでもない。
原判決の理由(原判決一四枚目表一〇行目から一九枚目表三行目)のとおり、被控訴人会社は、ミロク経理の債務不履行により、リース物件である本件コンピューターを使用することができないものであるところ、ミロク経理の右の債務不履行には、ミロク経理との間に緊密な関係のあった控訴人が重大な関与をしているのであるから、このような控訴人がする本件リース料の請求は、信義誠実の原則に違反する権利行使として、許されないものといわなければならない。
二同2について
控訴人は、ミロク経理から被控訴人会社に納入された本件コンピューターが検収できないものであったにもかかわらず、被控訴人らが、控訴人に対しその旨の通知をせず、リース料の初回金の支払をし、第二回以降の支払としてされた預金口座からの自動引落としについて異議の申立てをしなかったことが、控訴人に対する不法行為に当たると主張する。
一般に、リース契約において、ユーザーがサプライヤー(売主)と結託し、真実はリース物件の引渡しを受けていないのに、借受証あるいは物件受領書をリース業者に交付し、これによりリース業者からサプライヤーに対する売買代金の支払をさせたような場合には、ユーザーは、物件の引渡しがないことを理由としてリース料の支払を拒絶することができないことはもとより、事情によっては、ユーザーの右の行為は、リース業者に対する不法行為に当たることもあり得るものと解される。
しかしながら、原判決の認定の経緯に照らせば、被控訴人らが控訴人に対し、本件コンピューターが検収できないものであることを通知せず、被控訴人会社が控訴人に対し、初回金の支払をし、第二回以降の自動引落としについて異議の申立てをしなかった行為は、右のようないわゆる空リース行為ではなく、本件リース契約に基づくリース料支払債務を約定に従って履行したものにすぎないことが明らかである。
そうすると、被控訴人らの右の各行為は、違法性を欠く行為であるから、これをもって控訴人に対する不法行為に該当するものということはできない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 山口忍 裁判官 佐々木寅男)